大分地方裁判所 昭和62年(わ)458号 判決 1988年4月26日
本籍
大分県豊後高田市大字相原八二番地
住居
同市大字相原一五番地の一
会社役員
二宮康
大正一五年七月二日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤田義清出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大分県豊後高田市大字相原一五番地の一ほか一か所において、「二宮ストアー」の名称でいわゆるスーパーを経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を正規の帳簿に記帳しないで除外するなどし、これによって得た資金を簿外の定期預金及び普通預金等として預け入れるなどの不正な手段により所得の一部を秘匿したうえ、
第一 昭和五八年一月一日から同年一二月三一日までの昭和五八年度における総所得金額が四〇三二万一九円でこれに対する所得税額は一八三四万一八〇〇円であるにもかかわらず、昭和五九年三月一三日、大分県宇佐市大字上田一〇四六番地三所在の宇佐税務署において、同税務署長に対し、昭和五八年度分の総所得金額が二七五万七七五二円でこれに対する所得税額は二〇万九七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年度分の正規の所得税額と右申告税額との差額一八一三万二一〇〇円を免れ
第二 昭和五九年一月一日から同年一二月三一日までの昭和五九年度における総所得金額が一八八一万一七一一円でこれに対する所得税額は五八六万二〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月一四日、前記宇佐税務署において、同税務署長に対し、昭和五九年度分の総所得金額が四一八万三六六九円でこれに対する所得税額は四二万九〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年度分の正規の所得税額と右申告税額との差額五四三万一二〇〇円を免れ、
第三 昭和六〇年一月一日から同年一二月三一日までの昭和六〇年度における総所得金額が五一一九万一四九四円でこれに対する所得税額は二四三五万三〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和六一年三月一二日、前記宇佐税務署において、同税務署長に対し、昭和六〇年度分の総所得金額が二二六万九四円でこれに対する所得税額は一二万五四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の方法により、同年度分の正規の所得税額と右申告税額との差額二四二二万七六〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき、被告人の当公判廷における供述があるほか、記録中の検察官請求証拠等関係カード甲6ないし15、17ないし23、26ないし55、同乙一ないし12、15ないし22、判示第一の事実につき、甲2及び3、判示第二の事実につき、同甲4及び16、判示第三の事実につき、同甲5の各証拠
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつそれぞれにつき情状により同法二三八条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。
(量刑の事情)
本件は、被告人が三年間にわたり、所得額において合計一億一〇三二万円余を秘匿し、税額において四七七九万円余をほ脱したという事案であって、そのほ脱率は九八・四パーセントに及んでいるうえ、動機について被告人は、倒産した場合に備えるためなどと弁疏しているが、それじたい脱税を正当化する理由にならないことは多言を要しないのみならず、ほ脱した金を手元に株式投資の資金にしたいとの意志を有していたものであり、また、脱税の手口も、妻や経理担当者に指示して売上の一部を正規の帳簿に記帳せず、あるいは架空の仕入れを計上し、レジスター用紙を売上除外に合わせて打刻し直し、さらには知人を使って仕入れ代金の支払いを仮装するなどし、しかもこれによって脱税した所得を仮名、借名の預金や貸付信託等として簿外で蓄積していたものであり、その態様は巧妙、かつ、悪質というほかなく、本件によって被告人が負わなければならない刑責には重いものがあるといわなければならない。
しかし他面、被告人は自己の行為を捜査、公判を通じて素直に認め、これを反省するとともに、今後は正しく納税してゆきたい旨申し述べていること、本件については、いずれも修正申告を済ませて本税については完済し、延滞及び重加算税についてもいまだ完納していないものの、確実に納付していく見通しであること、被告人にはこれまでに前科、前歴がないこと等の被告人に有利な事情もあるので、これらの事情を総合考慮して主文の刑を量刑し、被告人に本件についての深い反省と今後の誠実な納税についての自覚を求めたうえで、今回に限って懲役刑については、その刑の執行を猶予することとした。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾昭一)